大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

東京地方裁判所 昭和32年(ワ)5344号 判決

原告 西山巧記

同 三公産業株式会社

右代表者 西山巧記

原告両名代理人弁護士 河和金作

外五名

被告 破産者株式会社日本殖産破産管財人 岡村玄治

外三名

右被告四名代理人弁護士 戸田誠意

外五名

主文

原告等の請求を棄却する。

訴訟費用は原告等の負担とする。

事実

≪省略≫

理由

一  日本殖産は金融を業とする会社であつたが、昭和二九年六月一六日東京地方裁判所において破産の宣告を受け、被告等が同日その破産管財人に選任されたことは当事者間に争いがない。

二  本案前の抗弁について

1  まず、被告等は、弁護士河和金作ほか五名が原告等の訴訟代理人として本件訴を提起したことは弁護士法第二五条第三号に違反するから本訴の提起は不適法である旨を主張する。日本殖産が同会社にかかる破産事件(東京地方裁判所昭和二九年(ワ)第二六号、同第三四号及び同第一六九号)について昭和三一年一一月東京地方裁判所に対し強制和議の申立をなしたこと、日本殖産は昭和三二年二月二一日右申立が棄却されるや東京高等裁判所に抗告をなしたこと、本訴の原告訴訟代理人中富田数雄及び古長六郎が右強制和議の申立代理人であり同人等のほか河和金作が抗告代理人であつたことは当事者間に争いがないが、本訴におけるすべての証拠をもつてしても、河和松雄、柴義和及び大河内躬恒が日本殖産の委任により同人の代理人として強制和議申立及び抗告事件を担当したことを認めるに足る証拠はなく、しかも、強制和議は破産者と破産債権者とが互に譲歩して配当以外の方法によつて破産を終結させる訴訟上の契約で、裁判所の認可によつてその効力を生ずるものであるから、強制和議事件における破産者の相手方は破産債権者であるというべきで、弁護士法第二五条第三号にいう「受任している事件の相手方」も本件の場合破産者に対する破産債権者を指し、破産者に対する債務者を指すものではないと考えられる。従つて、富田数雄、古長六郎及び河和金作が日本殖産の委任により同会社の代理人として強制和議事件(河和金作は抗告事件のみ。)を担当しながら、原告等の委任により、同人等の代理人として本件訴を提起しこれを追行したとしても、弁護士法第二五条第三号に該当するものとはいえず、強制和議事件に直接関係をもたない河和松雄、柴義和及び大河内躬恒が原告等の委任により同人等の代理人として本件訴を提起しこれを追行したとしても、何ら弁護士法第二五条に違反するものではない(本件においては、河和松雄、柴義和及び大河内躬恒が河和金作法律事務所に勤務している者であるかどうかによつて右の結論に差異はない。)よつて、本訴が弁護士法第二五条第三号に該当することを前提として本訴提起の不適法を主張する被告等の抗弁は、他の争点を判断するまでもなく理由がない。

2  次に、被告等は弁護士河和金作ほか五名は、一方において日本殖産の委任により強制和議事件を担当しながら、他方において日本殖産の委任により日本殖産管財人を相手方として破産財団の減少を企図する本件訴を提起し、これを追行することは、弁護士としての職務の公正を害するから、本訴は不適法である旨を主張する。しかし、本訴の原告等訴訟代理人中、河和松雄、柴義和及び大河内躬恒が破産者日本殖産から申し立てられた強制和議事件につき職務を行つていないこと、前示認定のとおりであるから、同人等についての被告等の主張はすでにこの点であたらない。また富田数雄、古長六郎及び河和金作が日本殖産の委任により同会社の代理人として強制和議事件(河和金作は抗告のみ。)を担当しながら、原告等の委任により同人等の代理人として本件訴を提起しこれを追行していることは、前示のとおりであるが、右富田等の行為が弁護士として道義上好ましからざるものであることは兎も角、弁護士法第二五条その他の法規の禁ずるところではないから、右の事実により本訴の提起及び追行を不適法となすことはできない。

従つて、被告等の右主張は理由がない。

3  以上の次第であるから被告等の本案前の抗弁のすべて採用し難い。

三、本案について。≪以下省略≫

四、よつて、原告等の本訴請求はすべて理由がないから、訴訟費用の負担について民事訴訟法第八九条を適用して主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 磯崎良誉 裁判官 島原清 立原彦昭)

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!
©大判例